Sunday 20 April 2014

卒塔婆


少し休憩。

撮影の立ち会いと同時に進行していたのが、浅野家の墓地のセット制作。実際は47人分、泉岳寺にお墓があるけども、映画内の設定では、アサノ家代々の墓地があり、そこへタクミノカミも葬られており、オオイシたちがキラの首をあげた後、墓前報告を行うことになっていた。


 数ある付属品の中でも、数をこなさないといけなかったのが卒塔婆。実物をよく見た事はないものの、墓地にはつきもの。

そとうば、という言葉は、仏舎利を表すストゥーパから来たもので、五輪の塔を簡略化したものだそう。石で作るより安価にできる供養として広まった様子。

宗派によって、何を書くかは違うらしく、浄土真宗に至っては卒塔婆なし。表裏や、東に正面を向ける、などいろいろな決まりもあるらしい。

泉岳寺は実際には曹洞宗のお寺である。曹洞宗の卒塔婆は、五要素を梵字で表したものの下に、戒名を入れるか、その裏に、バンというおおもとの梵字一文字をいれる、またはバンだけのこともあるらしい。
裏がどれだけ写るかは分からないものの、両面書くことにする。

切り出して薄く塗料を塗ったものに、黒ペンキで書く。並べて片面をまとめて書いて、一から25くらいまで書くと、25番目を書き終わった時には、1つ目が乾いているので、裏返して裏面を書く。それを繰り返し、まとまった数になったら、塗料をかけて古ぼけた感じを出す。

細かいことを言うと、アサノ家歴代の墓、というのに墓石と卒塔婆が全て同じ色になってしまったこと。本当なら、朽ちかけのと去年もので木の色が違うはずだ。墓石も、苔むしてカドも取れていい感じになってるのから、タクミノカミのもののように、出来立てのものがあって良いはず。時間切れでそこまで出来なかったけど、、。

グリーン、と呼ばれる植物や木の担当のチームもあった。お屋敷の中、農家などシーンに合わせて違うグリーンをそれらしく調達、配置する。墓地にはシモツケなど灌木があった。プラスチックの満開の桜は、花だけ造りもの。樹はちゃんと桜の木で、枝振りを調節したり、それに見えないように花を1つずつ取り付けていた。墓石につく苔も本物だった。

他に用意した備品は、線香立て(上の写真参照)、花入れ、卒塔婆を立てる柵のようなものがあり、仏塔や墓石の形も、時代を考えながら、いろんな資料を参考にしながら、設計図を作る人たちと相談しながら作業をした。

年末年始やお盆、お彼岸。墓地へ参ることはあるけれども、こういう細部まで見てないもので、改めて知る事が多いことに気付かされた。

Saturday 12 April 2014

撮影の日。Rolling!



全く余談ですが、先日発売になったブルーレイのパックに、おまけ映像が付いていたそうで、ブダペストでの皆のお習字レッスン風景が一瞬写っていたそうです。
画像、わざわざ送っていただきました。あけみさん、ありがとうございます!





さて。Windsor の森。ごらんの通り、撮影クルー達は半袖、短パンなのに、シーンの設定は冬。雪のつもりで、パウダーのようなものが一帯に撒かれていた。撮影開始が8時だから、機材を準備する人、雪や煙を用意するチーム、もちろん着物や髪を整えて来る俳優さんたちも、もっと早くに来ている。私は、墨と筆と紙だけ持って、ぼさっと8時に到着しただけ。

撮影してる近くで作業してたことはこれまでにもあったけど、すぐ横で、実際に関わるのは初めて。

サインをする主な配役の方や小道具側と、どうしましょうーと打ち合わせ。

巻物自体はカメラに入らないので、実際に巻物を無駄にするよりもという事で、その上に別の紙を置き、その紙にサインする、ということに。

実際に動作を試していただくと、筆が硯箱から取り上げにくかったので、小道具の人に、筆が置いてある部分を高くしてもらった。座る位置や、筆の持ち方や、姿勢などをもう一度確認する。確認のため自ら座りに来て下さった方も多くて助かった。

そのうちに撮影が始まる。

カメラが回っている「Rolling!」という声が幾度かかかると、カメラ外のスタッフは微動だにしなくなる。

よく分からない私でさえ、あ、と緊張するほどの静かさ。

47人含めて、現場には100人越すスタッフと機材。皆が鼻息の音さえ遠慮しないといけないほど。くしゃみ魔の私はなるべく意識しないように(すると余計出る)がんばる。

目の前で、普段、画面の向こうにいる人たちが、
普通に動いていて、それが景色のように見える。
でもすぐ横にあるいくつもあるモニターには、
今カメラが撮ってる風景が写っていて、
それは目の前にあるものと全く同じなのに、
全く違って見えた。

炊いてる煙(霧?)、光の加減、陰影の濃さ、何かよく分からないけど、レンズを通すだけで、肉眼で見えてるものと全く違って驚いた。

何回も同じ部分を撮り直す。
違う角度から撮っているカメラもある。
監督やカメラからの提案もあれば、俳優側からの提案もあり、またやり直す。
墨が乾いたから作り直す。
筆がなくなって(なんで?)スペアを取りに行く。
皆が歩いてはげた「雪」を撒き直す人。
カメラの部品を変えてる人。
ケーブル捌いて、自分が糸巻きみたいになってる人。
皆がまねっこで書いてるサインもどきを見て、皆で笑う。
「なんじゃこの字」「まさにみみずの這った跡!」

なんだか特殊な時間のようだけど、カメラが止まった瞬間に、普段の空気に戻る。

さすがに47人全員は撮らない。前半3、4人、最後のチカラとカイ。
カイは大事なところだから何回も撮る。最後にこれで47人になった、と宣言しておしまい。それで私は用済みそうだったので、もう一度机周りだけ確認して、紙を追加したりして、帰り支度をする。

机の上の、皆の筆跡を見ていたら、オオイシ氏がやっぱり上手なのだけど、カイだって、昨日の今日で、「魁」という難しい字がちゃんと書けていた。

もったいなのでここでは公開しないけど、写りもしないのに、ちゃんと練習して書けるようになってたのにちょっと感動してしまい、その紙を持って、近くで一服していたカイに声をかけにゆく。
「とても上手」というと、めちゃくちゃ嬉しそうに笑って
「ほんとに!?あれで良かった?ありがとう。」
めっちゃ良い笑顔。
そのサインのあった紙は、内緒だけど、記念にそのまま持って帰ってきちゃった。

帰って、卒塔婆との戦いは続き、それからしばらくして、撮影第二班 Second Unit から、再び書道指導のお声がかかる。

何?Second Unit って何するの。