Sunday 25 May 2014

第二班 - 撮影


室内での撮影は、だいたい大きな倉庫のようなところにセットを組んで、機材を持ち込んで行われる。機材と言っても、カメラから照明、モニターの設置など、部外者から見ると、時間がかかりそうなものばかり。そしてご覧の通り真っ暗なことが多く、カメラが回ってる最中は、ものすごい静けさ。

まっくら


メインの撮影の通りに小道具や背景がセットされて、手だけ写る人たちが手の化粧をして、着物を着てスタンバイする横で、倉庫のすみっこに机を設置してもらって、出が来るまで、最後の練習を皆でしていた。

カメラも、この映画は 3Dで撮るので、部外者のイメージによくある、肩に担いじゃうようなカメラじゃなくて、モンスターみたいに重そうな、ややこしいものだった。
実際に撮り始める前に、レンズを何回も替えて、試して、照明の具合も変えて、また試して、替えて、を繰り返してたのが印象深い。

機械のおばけみたい。
手前がオオイシ役、あちらが血判する侍役。

とてもクローズアップで撮るので、まず巻物の位置を机上で決め、カメラの距離とピントを合わせてから、手のふりをする人たちがその隙間に潜り込む、という感じになって、場合によってはとっても窮屈な姿勢で、慣れない筆を扱わないといけない場合もあって、かわいそうだった。

すぐ横にモニタがあって、今撮っている映像が確認できた。
私はオオイシやカイの人が字を書いてた時に、息をつめて見ていて、終わってから、はあっとため息をつくのを繰り返してたらしく、隣のスタッフに笑われた。

これが一人ずつ、位置を変えたり、角度を変えたりしながら、2、3日続いたように思う。練習中はへらへらしてた書く役の役者たちも、最後、やはりいったんカメラを目にすると、上手く書きたい、と思う気持ちに加速度がついたらしく、真剣さが増した。

そのせいか、モニターに映っていた、まさに一夜漬けの字たちは、二班の監督やスタッフは撮ったものに満足していた様子だったし、まあアメリカで、漢字を知らない人が見たら、こんなものかと思うかもしれない程度に見えた。でも私から見たらやはりひどいし(シツレイ)、今まで制作チームがどれだけ日本での公開に期待をしているかも聞いていたので、これらを日本人が大画面で見たらどうかしら、と思うとやはり、腹がぞわぞわ落ち着かない。

走り回っている二班の監督さんを捕まえて、その旨を説明した。
じゃあ、と、私が書く「魁」を、女手だと、右手だとバレるので、指をなるべく入れないように、筆先だけ大写しで撮っておくことになった。

カイブツのようなカメラと紙の、わずかな隙間に腕を延ばして入れ、体がななめの状態で、2回書き、OKが出た。自分の字の映像をモニターで確認することはできなかったけど、まあいいや、と思い直して、それで終わり。

私はこの時点で、この仕事の終わりの日を通達されていて、6ヶ月いたオフィスも、役目が終わって、次の映画へ、休暇へといなくなる人が増えてきていた。

撮影に直接関わった体験はこれでおしまい。
これ以降は、制作に関わった道具たちを、ぼちぼち個別に取り上げていきたいと思う。

Sunday 11 May 2014

第二班の書道指導ー練習

メインの撮影チームと別に、第二班「second unit」というチームがあることを知ってはいたが、具体的に何をするかは知らなかった。


そのチームの助監督から呼び出されて、説明を受けたところ、血判書のシーンの、接近したショットを撮るので、それらに顔が出ずに写る、エキストラの人が字を書けるようにして欲しい、ということだった。

血判書サインのシーンの、筆を取り上げたり、サインしたり、血印を押す、という細かい作業の撮影に付き合ってくれ、ということ。彼らが書いてる字も撮るから、と言われる。

みんな顔は出ない。でも髪も衣装もメイクもちゃんとして、主役級の俳優の身代わりになって、接近したショットや、スローなどを撮るようだった。

他にも第二班って仕事あるかもしれないけど、そんな当然のことを誰も説明してくれないし、私が見てそうかなと見当付けた限りでは。違ったらすいません。

サインする予定の人たちは、誰か誰を書くと100% 決まってない状態で、1ダースくらい居たように思う。共同の食堂の机で練習を始めるものの、全員、初心者。ほぼ日本人に中国人が2人ほど居たか。撮影開始まで1日半、という短さで、クローズアップで撮られて、見るに耐えられる字が書けるようになるのか。

無理。

でも仕方ない。
筆の持ち方から、運筆を説明し、その時点で決まっていた「配役」の名を、本物を見ながら、書いてもらう。接近して撮られるから、筆の持ち方は大事、動きにも自信がないといけない。慣れてもらうしかないので、とりあえず量を書いてもらうことにする。


上が初期設定の、オオイシ一人の手による血判書。
下が、設定編後の、各々の別な筆跡によるもの。

さすがに、超主役級、オオイシ、チカラ、カイなどの手のふりをする人は決まっていた。

カイは特に肌の色が西洋人なので、部分メイクをするとしても、肌の色が似てる人が選ばれたようだったが、決定的に困ったのは、ほんとのカイ(キアヌ)は左利き、左でサインするショットを撮り終わっているのに、肌色で選ばれた彼は右利きだった。いい加減。

とりあえず量を書いてもらうしかない。
 
オオイシ役の人の練習。うーん。


字を書くことは、見る目も大事だけど、手が覚えてしまうことも大事だと思う。

私の書道の先生の先生は、80歳を過ぎてなお毎日手習いしてらした。
一日さぼると、三日分後退する、と言ってらした。

学生の頃にヨットに乗っていた時、指導してくれた人が何度も言ってたのは、
「海の上に一分でも長く居たヤツが勝つ」。

まあ、やみくもにプランもなく、目標もなくやってても仕方ないかもしれないけど、それに触れている時間が長ければ長いほど、体で覚えていくことは増える気がする。

この仕事を6ヶ月やっていて、最後の5、6ヶ月目になると、考えなくても書けるようになっていることに気が付いた。毎日9時間書いてばっかりが6ヶ月。上手い、下手でなくて、中から出てくる感じだった。

でも彼らには、一日ちょっとしか時間がなかった。人によっては、一生懸命、書いてはくれたし、楽しい人達で練習は楽しかったけど、これらの字がもし間違って画面で大写しになっちゃったらどうしようという考えしかないまま、一日目終了。

出番待ち中も練習。頭も衣装もみんなそれなりに作ってから、撮影に臨む。

ほぼ、全員が悩んでいたのは、筆につける墨の量だった。慣れてしまって私には当然の感覚になっているけど、どばっと出て滲んでえらいことになったり、すぐかすれたり。字、そのものに関する質問より、そこでつまづく人が九割。



カイ役の彼は、悩んで、両方トライした結果、利き手でない左で書くことに決めて、左で練習を続けた。私だって左で書けない。でもご覧の通り。頑張ってました。

一緒に練習してると、分かったこともある。
第二版は、メインの撮影班と完全別行動。テントも食事も別、メイクや着物の担当も別。食事のメニューまで違うのには少し驚いた。そして待たされる。出番ですって呼ばれるまで、控えのテントで延々待つ。

撮影にも付き合った。それは次回。