Thursday 19 December 2013

リサーチ

裏方チームでは、当分の間、ただ一人の日本生まれの日本人だった私。字を書く以外にもたくさん使われました。そしてよっぽどでないと断らなかったために、Art Dep や自分のチーム以外からもお声が。
経理から日本語のレシートの解読を頼まれたり、衣装から色合わせに顔かしてって言われたり。1本の映画にこれだけの人が関わっているとは。
小道具チームは、2010年の11月頃に日本にデザイナーとバイヤーが買い付けに行っていました。買い物の成果は、日本から 40ft のコンテナが2本分!
大きいものはタンスや籠から、畳、古着、屏風に掛け軸や古本の箱たち、瀬戸物類、塗り物類、かんざしから仏さんまで、倉庫いっぱいの日本のもの。私はよっぽど嬉しそうな顔をしていたらしいです。
それでも足りないものがある。英国内で入手できないものは日本から送ってもらいます。オンラインで候補を探した後、冬で時差8時間、朝8時に出勤と同時に国際電話をかけて、質問したり、注文して送ってもらいます。提灯屋さん、京都のお扇子屋さん、仏具屋さん、畳のへりの生地、和蠟燭、ふすまの引き手、馬具。
皆様ほんとうにお世話になりました。

「これは何」「何に使うもの」
資料の本の絵や図を見てデザイナーたちから質問が来るたびの調べもの。
梵字、天狗、すもう、仏壇や神棚のあしらえ、婚礼の準備品、神楽や歌舞伎の演目、粉薬の包み方、水引の結び方、通行手形や関所について。
日本に居て図書館に行けたらどんなに助かったしもっと楽しかっただろうと思いながら、味方はオンラインサーチのみ。
血判書、切腹、墓石や地図などは、必要なことが分かっていたので、念入りに調べられましたが、切腹のやり方なんて!
しかも製作中の序盤まで、この映画をファンタジー色を濃くするのか、大河っぽくするのか、はっきりと全体の方針が決まってなかった、と聞かされていましたから、どの程度まで忠実に再現するべきなのか、私もよく分かっていませんでした。
きりんや天狗が出てくるのに、根付けは男性だけ持つとか、化粧品のお粉は何使ってたとか、正しくないといけないことの基準があやふや、、、。
もう一人、日本の方がいて相談できたら良いのにと何度も思いましたが、今になって思うと、あまりそんなに真面目に考えなくても良かったのかもしれません。

特に時代劇ファン、骨董好き、というわけでもありませんが、祖母にはよく歌舞伎や能に連れて行ってもらったし、母とは弘法さんなどの蚤の市によく行きました。専門的な知識はないまでも、全くなじみがないわけではなかったのも助かりました。


Monday 16 December 2013

提灯、、、

最初から分かっていたタスクの1つとして提灯書きがありました。実際の提灯に書いた経験はなし、でこぼこの上に書く、に挑戦です。とにかく安く買って来たものにトライしてみることに。やっぱりまっすぐ線が引けません。紙にすらすら書くのと勝手が全く違うものです。これは、紙を提灯の骨組みに貼る前に書いているのでは、と思いました。でもそうすると、でこぼこによって、貼る前にまっすぐ書いた線が、貼った後だと直線に見えなくなります。Youtube で検索してみたら、スケルトンを書いて、ふちどりなどしてから肉をつけていく、とありました。さっそく挑戦。
こうなるとレタリングです。意外に苦戦しました。あと気付いたことは、だいたい提灯は目より上の位置につられるもの。棚の上などに置いてから見てみると、書いてるときに球体の真ん中に書いたつもりでも、下から見ると、全体の上部にバランスがあるように見えました。



撮影はハンガリーのブタペストでもありました。そこでは置屋さんの店先を飾る色っぽい提灯を、、、。赤い地の色はペインターさんにスプレーで塗ってもらった後に、四角い金箔を貼って、その上から字を。字は全部ペンキです。屋外に使われるものは全て水溶性のペンキでした。
巷は Prince William と Kateのお祝いで祝日なところを、提灯大量生産中でした。
これらはお祝い用のもの。ペインターさんが古そうに見せるために真っ白の提灯を汚れた色にした後、上と下に吉良色の紫を。それが乾いたら私が引き取って、字と紫の丸を入れていきます。全て、祝、寿、結などのめでたい字をデザイナーのリクエストで書体を混ぜて書くことに。篆書は直線が多いので、でこぼこの上には楽でした。

このへんになると要領が分かって来て、ふちどらないで、まず字を雑に書いたあと、肉をつけながら整えていく方法が一番早い、と私なりに結論を出しました。2週間くらいずっと、それも一人で、提灯ばっかり書いてた気がしますが、合計これで214個くらい書いたようです。それでも最初の希望の数に足りませんでした。間に合わない、足りない、と言ったところで人を助けにくれるわけでもない、と同僚にぐちっていたら、まあ出来ないなら出来ないで、ケイコのせいではないから、と言われて、一気に気が楽になったものです。セットでの提灯の並べ方も、私は書体をまんべんなく混ぜて欲しいと思っていたのですが、時間がまるでなかったのでそれどころではありませんでした。


後半になって、違うシーンで使う提灯に再挑戦できる機会がありました。全部で6つ書けばよく、時間もあったので、デザインも、実際の作業も時間をかけてゆっくりできたので、1つ1つのデキは、紫軍団より良かった、と思います。

Friday 6 December 2013

とりあえず書いて貼っとく。そして著作権。怒られてばっかり。

日本では今日から公開だそうです。どうなんだろう、、、。気になる。

台本は、最初から出来上がってるものだと思っていました。そしたら初回に読んだものはちょっとしかなくて、え、こんな短いの、と思っていたら、どんどん差し替えや追加がくるのでした。最後にはちょっとした厚さになりました。
忠臣蔵の話は日本人だったら誰でも知っています。台本を読みながら、頭に浮かぶのはTVで見たドラマの画像。それらと、台本にある場所の指定を読み、それからデザイナーたちと話しながら、お店屋にはのれん、お城には幟などと想像して、メモをとります。実際にデザイナーから、これとこれはもう絶対要るの、決まってるの、と言われたのはいろいろな提灯。また逆に資料の本や画像を見ながら、これは何、なんて書いてあるの、と聞かれながら、ラフに復元してみて、と頼まれたり。

なんでもとりあえず書いてみて貼ってみることに。大きな部屋の、皆の通り道に机を置いてもらえることになったので、皆が通りがかりに、何それ、と会話が始まります。

もう、当たり前のことなのですが、皆「なんて書いてあるの」なんです。ああ読めないんだ、って都度思いました。「かっこいいけど、なんて言ってるの」カリグラフィーでもそうですが、習字だって、字を書くわけです。何か情報が載ってるわけです。何か言ってるのは、何かを伝えたいからです。そのことは最初から最後まで、 いつもいつも意識せざるをえませんでした。

「この壁に何か書いて」なんでも良いことないんです。どういう状況で、 どういう場面で、この元禄の時代の字で、その時の言葉で、何と言ってるシチュエーションが想像できるか、できたら、それが時代的に正しいのか、古文的に正しいのか(もっと勉強しとくべきだった)なんでもグーグル様です。

その上にこれが慣れるまで本当に大変でしたし、いつまでも抜けがあったのですが、その言葉や内容に著作権 copy right がないかどうか、映像に使って大丈夫か、勝手に使って怒っちゃう人がいないかどうか、アメリカの Universal の人に問い合わせて「クリア」しないといけないのです。映画の仕事してる人には日常茶飯事だったようですが、私はいっつも忘れて、その度に怒られる始末。人名、店名なんでもです。四十七人の名前、辞世の句、墓石、戒名、南無阿弥陀仏までです。

絵だったらそう厳しくないのかもしれません。字だから、情報だから、何か言ってるから、何かを意味してるからです。もう時間がなくて、「クリア」してる暇なし!もう今撮る!っていう時は、わざと変体仮名にしまくったり、続け字にして読めなくしたりもしました、、、、。

著作権ついでに言うと、私の書いたもの、創ったものは、この映画のもので、私が書いてたって、私に何の権利もないんだそうです。
いろいろ初めて知ることばかりの日々です。



Wednesday 4 December 2013

構成

私を採用してくれたチームは、Set Decoration, 約して Set Dec と呼ばれる7−8人のチームでした。
隣は Art Department。ここはボスが Production Designer という、映画全体のデザインの決める人。その下に Drafts Men と呼ばれる、図面を引いて、実際の建物や模型をデザインする人たち、またそれらの画像処理をする Graphic の人たちがいます。壁には建物、風景、またはそれらの細部の資料写真がいっぱい。資料の本棚も素晴らしい写真集などが並びます。
同じフロアには事務的な係の人も、経理の人たちも。ここには日本語のレシートを訳したりする手伝いでよく出入りしました。
一階下には衣装のチーム。デザイナーは、有名な海賊映画シリーズを担当した方でした。
外にはもちろん撮影場所もですが、Prop 倉庫と呼ばれる、小道具大道具を管理する倉庫がありました。大きいのが2つ。家具や籠からおはしまでそこで管理されます。

俳優さんたちは全然違う場所です

Set Dec の仕事は、舞台装飾です。Art Dep がデザインして、大工さんたちが作った建物や部屋を飾っていくことです。外観の旗から、内装のお軸や台所用品、生け花、お数珠などまで、大きいものから小さいものまで何でもです。

資料と脚本から、どんなものが創れそうか、どんなものに字が入っているか、メモをしてセットデザイナーに見せることになりました。


Monday 25 November 2013

はじめに

イギリス、ロンドンで字を書く仕事をしてきて、11年になります。2011年1月から7月の終わりまで、ロンドン西の Shepperton Studio という撮影所で、映画 47 Ronin の制作チームの一員として仕事をしました。
今回、映画の公開にあたって、7ヶ月の体験を記録として記そうと思います。

2010年の10月くらいに電話連絡があって、その時は他の会社でフルタイムで働いていたのですが、なかなかにない機会だと思って、勤務先を辞めて制作チームに参加することにしました。セットデコレーションというチームの一員です。チーフデザイナー1人、その補助で2、3人、グラフィックデザイナー1人、バイヤーと言って、お金の管理または物の調達の係が2人、小さいチームです。私は大道具、小道具などに、日本語が書けること、資料の日本語が読めることを求められていました。


今までの勤務先は普通の事務、またはステーショナリーの会社などでしたので、全くはじめての事ばかり。制作に関わっている人たちは殆ど皆フリーランスで、映画ごとに契約をしているようでした。1つの映画が終わったら、次へと、シェパトンか、姉妹撮影所のパインウッドを中心に仕事を続ける人がほとんど。昔の日本でも映画の撮影に関わった人の著書などを読むと「〜組」という呼び方が出て来ますが、同じ様に、ボスの周りに同じ人材が集まる仕組みのようでした。


最初の日は、皆に挨拶、事務的な書類の登録などに加えて、隣の大きな建物や町並みなどのデザインをしているチームの資料の見学をさせてもらったり、その当時の台本を読んだりして終わりました。どうやって私のスキルがこの中で役立って行くのでしょうか、、、。